なぜ彼らは、私に会社を辞めさせてくれないのか
2015-11-05
前に、こんなことがありました。
私が会社を辞めたいと、上司に伝えたあの日。
忘れもしません。あれはいまと同じ、少し肌寒くなってきた秋の頃でしたでしょうか。
私は計数十時間もの間、会社の一室に監禁されました。いや、軟禁というべきでしょうか。
かん きん 0【監禁】 (名)スル 人を一定の場所に閉じ込め,脱出できないようにすること。「地下室に━する」 大辞林 第三版
なん きん 0【軟禁】 (名)スル 身体は自由にしておくが,外部との接触を許さない状態におくこと。「自宅に━する」 大辞林 第三版
前々から退職を考えていた私は、あらかじめ頭に整理して溜め込んでおいた、職を辞する理由をつらつらと述べていきました。もう最後なのだからと、お世話になったことから親切心もあり、なぜ社員が辞めてしまう会社なのかを詳しく説明していきました。
しかし、彼らは、しきりにこう言います。
君がいなくなると困る あと1年だけ続けてくれないか
私の話の内容など、そんなものはどうでもよくて、ただ目の前の仕事を片付けてくれる駒を手放したくない彼らは、必死で私の機嫌を伺い、持ち上げ、そして監禁します。そして、その問いにNoを伝え続けるということは、つまり今日はこの監禁部屋から決して出られないことを意味します。
どうしてだ
社長が嫌いだからです
彼らにも思い当たる節はあるのでしょう。決してその話題を掘り下げることはしません。
君は優秀な人材なんだ 将来を期待している
都合の悪い話から、薄気味悪い褒め言葉へと話題をすり替えすり替え、無意味な数時間をただただ頭を下げる上司の目の前で過ごします。考えている、悩んでいるふりをしながら、ただ首を横に振るだけの簡単なお仕事です。
本当に頼むよ
中間管理職というのは、なんて嫌な仕事なのでしょうか。嫌いな社長のために、嫌いな部下に頭を下げなければならないのですから。
辞める方も、決して目の前にいる上司が嫌で辞めるわけではないのです。しかし、会社を辞めるというのは、とどのつまり、そういうことです。目の前の上司の、お世話になった上司の、苦労を共にした上司の、助けを求める手を振りほどき、自分のために歩き出すということなのです。
よく、わかった ここで待ってろ
ここで次に出てくるは、たいてい、さっきよりも偉い上司です。
どうして辞めたいんだ
幾度となく話した内容を、もう一度話します。
そして、何度も。嫌になるくらいに。
でも、結局それって、これから改善できるんだよなあ その点はこれから改善していこうって方針で、会議の議題になってるんだよ
今度は、より経営者に近い観点から、何時間も同じ話を繰り返されます。
この監禁部屋では、何でも改善できることになります。私の辞めたい理由は、何でもかんでも今後改善されると聞かされます。何十分も、何時間も。
しかし、改善されなかった過去があるからこそ、私は辞めるのです。
何が不満なんだ
この、監禁されて4、5時間経過した辺りから、だんだん話す言葉がなくなってきます。何を言っても話は平行線。次にいう言葉も、的外れな回答によってうやむやにされるという感覚が、だんだん身に染み付いてくる頃です。
そして私は、話すのをやめました。
君がそのつもりなら、わかった 会社にとどまらないのであれば、損害賠償を請求する
なぜ彼らは、私に会社を辞めさせてくれないのでしょうか。
20代前半の、まだケツの青い、生意気なガキエンジニア1人、なぜ辞められないのでしょうか。
この間退職した同年代のエンジニアは、いとも簡単に辞めていったのに。なぜ私だけ、辞められないのでしょうか。
賠償金額は、70万円だ
これも、東京の、都会の罠と呼ばれるものの一つなのでしょうか。田舎出身の田舎者を、皆で寄ってたかって騙そうという魂胆なのでしょうか。
彼らの言うとおり、私が非常に優秀で、いなくなったら仕事が回らなくなって困るから損害賠償を請求するというのなら、そしてそれがまかりとおる世の中ならば、私は自分の能力を恨むしかありません。
もう、会社というものが嫌いになりました。
会社という組織の後ろ盾の元、田舎から出てきた希望あるエンジニアを監禁し、その会社の中でのみ通じる正当な理由によって損害賠償を求めると脅し、弁護士をも雇えない若者の足元を見て生き血をすするクソ人間が集まるもの、それが会社です。
そして私は、そんなものに服従して、嫌な仕事を我慢し続けて生きていかなければならないのであれば、死んだほうがマシだと思うようになりました。
やりたいことをやるために、私はこれまでエンジニアとしてITの勉強をしてきたのです。実力もないのに、やりたいことを仕事にできるはずがありませんから。
ですが、その努力が、結果として私の首を絞めました。
世の中、理不尽です。今日もその理不尽を飲み込み、会社に向かいます。